夢の欠片ーパニック障害な私ー

パニック障害と不安障害を抱え、 なんとか生きている私の日常。

2017-10

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池の辺にて (2)



私たちは、とりとめもなく、お互い、自分の言いたい事だけ言って、言いたくない事は、言わなかった。

言う必要もなかった。

公園の風景は、いつも同じように見えるけど、いつも同じじゃない。

白い雲が浮かんでたり、風がひどく吹いたり、子供たちがたくさんいる時もあれば、

人影がまばらなこともある。

飽きることなんてない。

刻々と、景色は変わっていくのだから・・・


しばらくすると、彼は、ぱったり、姿を見せなくなった。

私は、いつものように、池の辺にすわって、眺めていた。

空や、木や、草、花、蝶、鳥、水面の波紋、風の通り道、子供たちの声、空気の色・・・

彼がいないと、やっぱり、少し、寂しい。


寒くなってきたので、私も家にいることが多くなった。

家にいる時は、編み物をしていた。

熱いココアを飲みながら・・・

窓の外を眺めながら・・・

好きな音楽を聴きながら・・・

部屋をうんと暖かくして・・・


私にも、受験シーズンは、やってきた。

が、あんまり、関係なかった。

成績がすごく悪かったので、どこも入れる大学なんかなかったから・・・

仕方なく、就職斡旋の窓口へ行った。

就職のほうは、簡単だった。

別に、どこでもよかったので、目に付いた会社を受けに行った。

「4月から来てください。」

と、言われた。


卒業式が、終わって、入社するまでの間、自由の身となった。

いつでも、私は、自由にやってるけど、ほんとに、まるまる自由だった。

だから、毎日、公園の池の辺に居た。

勤め始めたら、もうこんな事も、あんまりできなくなるなあ・・・

友達は、皆それぞれの、大学へと、旅立っていく。

時々、駅に、見送りに行った。

地元に残る子は、少ない。

私は、ちょっとばかり、感傷的になっていた。


久しぶりに、本当に、久しぶりに、彼はやって来た。

私は、なんだかすごく懐かしい気がして、ちょっと、涙が出そうになった。

「久しぶりだね。」

「うん。」

「ずっと、忙しくしてたから、ここへ来るの、何日ぶりかなぁ。」

「忙しかったの?」

「ああ、そう。

5校、受けてきたよ。」

「五つも?」

「そうなんだ。

親が、あちこち受けとけって、うるさくって。」

「それで、美大は?

美大は、どうだったの?」

「・・・・・美大・・・か。」

「そうよ、美大よ。

受けたんでしょ?」

「いや・・・」

「え?」

彼は、長い間、口を(つぐ)んでいた。

まるで、次の言葉を口にするのを、恐れているみたいに・・・

私は、じっと、待っていた。

待つのは、得意だから、何時間でも待てる。

池を眺めていた。

鳥が舞い降り、また飛び立って行った。

風が、そよと、一筋、吹き過ぎた。

静かな時間が、漂っていた。


突然、子供の泣き声がした。

弾かれたように、私たちは、はっと、現実に引き戻された。

「美大は、受けなかったんだ。」

「そう・・・」

「T大へ入れたから、そこへ行く。」

「そう・・・」

「明日、発つんだ。」

「そう・・・」

「これ、君に。」

「・・・・・」

「渡そうと思って、鉛筆でしか描けなくて、油絵の道具は、全部、捨てられちゃったから。」

「・・・・・」

「君の顔、笑顔ばかり、思い出してたよ。」

それは、すごく、丁寧に描いてあった。

私の笑ってる顔。

私、こんな風に笑ってるのね。

「ありがとう。

本当にありがとう。

私、これ、宝物にするわ。」

「そうだね。

僕の最後の作品だからね。

君に持っててもらえたら、嬉しいよ。」

私は、なんだか、熱くなって、顔を拭ってみると、涙が出ていた。

「君に会えて、よかった。

楽しかったよ。

また、帰ってきたら、ここに来てみるよ。」

「そう?・・・私も・・・

楽しかった・・・わ・・・」

「また、きっと、来るよ。

きっと、君に会いに来るから・・・」

まるで、自分に言い聞かせるように、彼は、何度も、そう言った。

あなたは、もう、来ない。

きっと、もう、来ないわ。

私のこの世界には、もう、戻ってこれないわ。

でも、ありがとう。


彼は、名残惜しそうに、帰って行った。

何度も、振り向きながら・・・

何度も、手を振りながら・・・

木立ちの向こうへ消えて行った。

 

 <END>



 



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昌子

Author:昌子
パニック障害と不安障害になって、
10年が過ぎました。
大量の薬、副作用、家庭環境、
精神的虐待、自虐的心理状態・・・
などと闘ってきました。


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