夢の欠片ーパニック障害な私ー

パニック障害と不安障害を抱え、 なんとか生きている私の日常。

2005-06

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

続・罪 (1)

 

 

屋上の手摺から、身を乗り出して、私は、一部始終を見ていた。

彼女の周りを、医師や看護士、様々な医療器具が取り囲み、心音を聴いたり、脈を取ったり、怪我の状態を調べたり、心臓マッサージをやったりしていた。

が、ついに、医師は、瞳孔を照らし、そして、腕時計を見た。

皆が皆、一斉に彼女に向かって、手を合わせ、

それから、おもむろに、ストレッチャー以外の物は、すべて片付けられていった。

もう笑わなくなった彼女の体は、それに、乗せられ、私の視界から消えた。

それでも、まだ私は下を見続けていた。

生々しく放置された彼女の血液が、そこら中に飛び散った様を凝視していた。

思考は、完全に停止し、体は硬直していた。

どのぐらい、そうしていたのだろうか。

私を呼ぶ声に気付いて、やっと、私はこの縛から解き放たれた。

途端に、すべての力を、一瞬にして奪われ、その場に、崩れてしまった。

床に転がった2本のペットボトルが、陽に照らされ、眩しい光を放っている。

 

ベッドに横たわったまま、時間だけは過ぎていく。

この部屋の中は、何の変化もないのにね。

窓の外を、日が昇ったり、沈んだりして、それで、一日経ったって、判る。

 

いつも、夜中に目が覚めて、それから、朝まで、眠れない。

誘眠剤とか、睡眠剤とか、飲んでみても、あまり変わりはない。

することがないので、ノートに、とりとめもなく何かしら、書いてみる。

それは、字だったり、絵だったり、記号だったり、ただの三角だったり・・・

本当に、なんの意味もない。

 

 

ある夜、いつもの時間に目が覚めた。

しばらく、ぼーっとしていたら、何か白い物が浮かんでいるのが見えた。

よくよく、目を凝らしてみると、それは、人の形をしていた。

ひぇ~、まさか****?

慌てて、布団を被った。

そんな、まさかね。

私、霊感なんてないし・・・

****なんか、見るわけないわ。

恐る恐る、顔を出してみると、まだ、それは、そこに居た。

こ、怖い~。

は、早く消えて~。

「怖がらないでよ、私なんだから。」

私?・・・私って、誰?

「私よ、よく見てよ。」

よく見ろったって、いやよ。

怖いんだもん。

「怖くなんかないでしょ。

生きてる時は、いつもいっしょにいたじゃないの。」

えーっ!

やっぱり、****じゃないのー。

「私、レモンティー、飲みそこなったのが、心残りなの。

飲んでから、死ねばよかったわ。」

あ、なんだ、彼女じゃない。

「そうよ。

だから、怖くないでしょ。」

そんなこと言ったって、やっぱり、怖いわよ。

「私、死んでから、ずっと、この辺りをうろうろしてるの。

迷っちゃったみたい。」

えー、そんなこと言われたって、何にもしてあげられないし・・・

「あなた、さ、どうせ夜眠れないんでしょ?

朝まで、ここに居させてくれない?」

そんなぁ、****と朝までいっしょなんて、あんまり気持ちいいもんじゃないわよ。

なんだか、気分が悪くなってきちゃった。

私は、****のほうを見ないように、急いで安定剤を飲んだ。

そして、布団を頭まで引っかぶり、

「どうか、眠れますように・・・」

と、ひたすら祈った。

 

やっと、うとうとし始めたのは、もう明け方だった。

そのまま、お昼前まで、眠っていた。

う~~~~~

なんだか、気分悪~い。

夜中のあれは、いったい何だったのだろう。

ほんとに、彼女だったのかな?

夢だったのかもしれない。

やだなぁ、誰か、お見舞いに来てくれないかしら?

入院してから、お兄ちゃんが、時々来てくれるだけだ。

夫は、来ない。

来てくれなくてもいいけど・・・

いえ、来ないほうがいい。

来てなんか欲しくもない。

 

「ねえ、今日、外科で、一人亡くなったみたいよ。」

よしてよ!

こんな真夜中の病院で、そんな話、怪談より怖いじゃない。

「その人は、どこへ行くのかしら?

どこか、行く所があるのかしら?」

知らないわよ、そんな事。

「私は、どうすればいいのかしら?

このまま、ずっと、ここに居るのかしら?」

・・・・・

「ねぇ、あなた、いっしょに来てくれない?」

な、なんですって!?

私は、いつも通り、布団の中に潜り込んでいた。

よして、よしてよ、そんな話、聞きたくない。

私は、両手で耳を覆った。

早く、どっか行っちゃってよ。

なにも、私のとこなんかに、居なくても・・・

 

 <つづく>

 

スポンサーサイト

続・罪 (2)

 

「もしもし、あ、お兄ちゃん、私。」

「ああ、どうしてる?

ごめんよ、このところ、忙しくしてて・・・」

「そう、忙しいの?」

「来月には、行けると思うから・・・

すまんな、寂しくさせて。

何か要る物あったら、持ってくよ。」

「ううん、別にいい。」

電話を切ってから、しばらく、談話室に座っていた。

義姉さんの顔が、思い出される。

いつも、私を見る目が、どう好意的に解釈しても、「邪魔者」と、言ってるようにしか見えない。

義姉さんの手前、あんまり足繁く、ここに来られないんだって事も、おおよそ見当が付く。

お母さん・・・

お母さんが生きてれば・・・

もう、ちょっと、あれよね。

二人とも、なんで、あんなに早く逝っちゃったのよ。

 

「ねえ、ねえ、ってば。

ちょっとは、私、見てよ。」

いやよ、いやあ。

****なんて、見たくない。

「ひどいわね。

どんな姿になっても、私は私じゃない。」

違う、違う、あなたじゃない。

「入れ物が、壊れちゃっただけで、中身はおんなじじゃない。」

・・・・・

「私、すごく、寂しいの。

私が死んだって、誰も悲しんでなんかくれないし、死んでくれてよかったって、思ってる人もいるのよ。」

・・・・・

「私だって、何も好き好んで、あんな人生、選んだ訳じゃないのに・・・」

・・・・・

「ねえ、あなたなら、解ってくれるでしょ。

ねえ、ねえ、ったら。」

可哀想だとは思うけど・・・

「だから、ここに居させて、お願い。」

・・・・・

 

 

「やあ、元気してたか?

あ、いや、病人に言う言葉じゃなかったな。

どうだい、少しはよくなってるかい?」

「よくわかんない。

よかったり、悪かったり・・・

でも、発作の回数は減ったみたい。」

「じゃあ、よくなってるんじゃないか。

主治医の先生も、このまま、よくなっていくようなら、退院もそう遠くないって、仰ってたよ。」

「退院?

退院するって、私、どこに帰ればいいの?」

「そりゃあ、うちへ来りゃいいだろ。

なんなら、一部屋、建て増ししてやろうか?」

「いいわよ、そんな、お義姉さんに悪いじゃない。」

「何も遠慮なんかしなくたって、あそこはお前のうちじゃないか。

第一、もう奴の所になんか、帰れやしないし、

俺も、お前をあんな奴んとこへ、二度と行かせたくないし・・・」

「お兄ちゃん・・・」

「心配するなよ。

お前は、幸い子供もまだだし、これから、いくらだって、やりなおせるんだから。

あ、そうそう、お前の好きなチーズケーキ、買って来たから、いっしょに食べよう。」

「あら、嬉しい。

何か、飲み物買ってくるわ。」

自販機の前まで来て、ふと、彼女の事を思い出した。

硬貨を入れて、ボタンを押そうとした時、私の指が触れるより先に、レモンティーの文字が赤く点灯した。

え?

ガタン・・・と、ペットボトルが取り出し口に落ちて来た。

やだ・・・

もう一度、硬貨を入れてみた。

今度は、なんともない。

なんだ、気のせいね。

そうよ、そうに違いない。

 

 

「なによ!

知らん顔しちゃって・・・

わかってるくせに・・・」

あー、やっぱり、気のせいなんかじゃなかったんだわ。

「あなた、この先どうするつもりなの?

なにか仕事とか、宛はあるの?」

・・・・・

「実家に帰っても、居ずらそうね。」

・・・・・

「ただ生きてたってしょうがないんじゃない。

今のあなたと、今の私と、どこに違いがあるって言うの?」

・・・・・

「いっそ、私の所へ来たほうが楽なんじゃないかしら。

ね、そう思わない?」

・・・・・

 

「お前、俺のせいだって言うんじゃないだろうな。

なんとか言えよ。

なんだよ、その目は・・・

いつだって、被害者面しやがって、まるで、俺が悪者みたいじゃないか。

俺の気に入るようにしないお前が悪いんだぜ。

苛められたみたいにいうなよな。」

最後に私を殴った時、夫はそう言った。

じゃあ、どうすればよかったって言うのよ。

私、できるだけの努力はしたわ。

もう、疲れ果てて、何にもできなくなるくらいに、ね。

ここに運ばれてきた時、ほっとしたわ。

これで、もう、ひどい目に合わされずにすむって・・・

私は、あちこち、怪我してたし、精神的にも限界だった。

カルテには、なにやかや、いっぱい書き込まれていった。

外科で、怪我の治療をして、内科でも、いろいろ調べられた。

結果、精神科へ移された。

カウンセリングを受けて、抗鬱剤とか、安定剤とか、飲んで、なんとか、平常心を取り戻しつつあるってとこかしら。

こんな状態で、退院したって、どうしたらいいか、わからない。

働くなんて、当分無理だし、だって、人と会うのだって、嫌なんだもの。

 

 <つづく>

 

続・罪 (3)

 

「逝きましょう、さあ、逝きましょうよ。」

彼女は、毎夜、私の耳元で囁く。

「いっしょに、逝きましょう。」

やめて、聞きたくないのよ。

耳を塞いだって、その声は、防げやしない。

私の頭の中に、直接響いて来る。

「やめて、やめて・・・」

その時、目の前にナースコールが見えた。

それをつかむやいなや、力一杯、押した。

早く答えて!

私は、汗まみれになって、祈った。

「どうしました?」

「早く、来て!」

その瞬間、彼女は消えた。

 

前より少し強い安定剤が、処方された。

睡眠剤も変わった。

多少眠れるようになった。

とにかく、あの時間帯に目を覚まさないように、計算して、薬を飲むようにした。

おかげで、ここ一週間は、彼女に会っていない。

これで、ようやく、気が楽になった。

 

 

「ご主人が、会いたいと、言っておられますが、どうです?

お会いになりますか?」

主治医は、いきなり、そんな事を訊いた。

・・・・・

「すぐに、という訳ではありませんから、一度、考えておいてください。」

「はあ・・・」

会いたくない、と思う。

会うのが怖い。

顔を見たら、具合が悪くなるかもしれない。

いや、きっと発作を起こすに決まってる。

・・・ような気がする。

どうだろう?

よく、わからない・・・

彼は、今、どうしてるんだろう。

一人じゃ、なんにもできないのに、ご飯とか、洗濯とか、お義母さんに来てもらってるのかもしれない。

人の気持ちって、不思議だ。

こうして、離れてみると、そんなに、ひどい人とも思えない。

渦中にいる時は、あんなに、憎み、忌み、嫌い、恨み、いっそ、さっぱりといなくなってくれたらいいのに、と、四六時中、思っていた。

寝てるところを、眺めながら、今なら殺せるかも・・・

この人を、刺して、私も・・・って、

何度、そう思ったかしれやしない。

でも、できなかった。

ほんとは、いい人なんだって・・・

優しいひとだって、思いたかった。

心のどこかで、信じていたかった。

彼本来の姿に、いつか戻ってくれるに違いない。

もしも、そんな日が、いつか、来たら・・・

そうなったら、私たち、毎日幸せに、笑って暮していける。

って、夢でしかないかもしれないのに、1%でも、信じていられるなら、信じていられるだけ、信じていたかった。

 

ある日、主治医と夫と3人で、会った。

夫の顔を見るのが、怖い。

私は、ずっと俯いていた。

「ご主人は、ずっと、カウンセリングを受けに、いらしています。」

え、そうなの?

「俺が・・・

間違ってたのかもしれない。」

夫は、ぽつりと言った。

「・・・・・」

その言葉を、どう受け止めたらいいのか。

私は、何も言えなかった。

言葉が出てこなかった。

俯いたままだった。

夫もそれきり黙ったままだった。

 

「なんだって!

あいつに会ったのか?

なんで、また・・・」

「だって・・・

先生が、向こうが会いたいって、言ってるって、だから、一度、会ってみたらって・・・」

「お前、もう会うなよ。

誰のせいで、こんな事になったと思ってんだ。まったく、厚かましいやつだな。」

「・・・・・」

「ほら、お守り買って来てやったぞ。

早く、良くなるようにな。

氏神様の病気平癒のお守りだよ。」

「ん、ありがと・・・」

「さあ、これを、首に掛けとくんだ。

これで、もう大丈夫。

すぐに、良くなるからな。」

「・・・お兄ちゃん。」

「おい、泣くなよ、お前・・・」

 

そうね、元気にならなきゃ。

退院して、お兄ちゃんとこに、置いてもらおう。

そして、何か、私にでもできる仕事があったら、働いて、お金が、貯まったら、アパートでも探して・・・

私は、少し、勇気が出てきた。

談話室でコーヒーを飲みながら、窓の外を眺めていた。

もう、すっかり秋ね。

空には、いわし雲が、きれいに並んでいる。

談話室には、私の他には誰もいない。

私は、久々にゆったりとした気分になれて、ほっとしていた。

・・・のも、束の間。

いきなり、ドアが開いて、誰か入って来た。

あっ!

何?・・・あなた・・・なんで?

夫が、つかつかと、私の前までやって来た。

「おい、お前、このまま別れようって言うんじゃないだろうな。

お袋に、さんざん煩く言われて、カウンセリングとかに通ってるけど、もう、うんざりなんだよ。」

・・・・・

だ、だから何だって言うの・・・

私は、反射的に夫から顔を背けた。

「いつまでも、こんなとこで、病人面しやがって、さっさと帰って来いよ。

お前がいなきゃ、困るんだから。」

・・・・・

やめて、いや、聞きたくない・・・

・・・・・

「聞いてんのか?

おい、解ってんだろうな。

早いとこ、退院しろって言ってんだよ。」

夫は、今にも、つかみかかりそうな勢いでまくし立てる。

・・・やめて・・・

動悸が打つ。

全身から汗が噴出す。

震えがきた。

吐き気がする。

息ができない。

ああ、苦しい。

誰か、助けて・・・

私は床に蹲って、がたがた震えていた。

持っていたコーヒーの缶が転がり、床に茶色の液体が広がっていく。

「何してるんですか!」

ああ・・・看護士さんの声・・・

「勝手に入っては困ります。

さあ、出て、早く、出て行ってください。」

「なんだい、俺はあいつの夫だ。

何しようと、勝手だろ。」

「なんですって。

あの方は、ここの患者さんですよ。

あなたの奥さんだからって、手荒な真似をされちゃ困ります。」

そうこうするうち、何人か、看護士さんが入って来た。

「どうしました?」

「あっ、大変だ。」

「私、先生を呼んでくるわ。」

ああ、助かった・・・

私は、力無く、床に倒れ込んだ。

 

 <つづく>

 

続・罪 (4)

 

「無事だったのか!?」

「あ、お兄ちゃん」

「ああ、よかった。」

「こんな遅くにどうして・・・」

「先生が、知らせてくださったんだ。

それで、すぐに飛んで来たんだ。

ここまで来るのに、こんなに時間がかかると思ったのは、初めてだよ。

よかった、ほんとによかった・・・

お前が、なんともなくて・・・」

「お兄ちゃん・・・ありがとう。

私・・・怖かった・・・」

「あの野郎、何考えてやがんだ。

まったく、自分のやってる事、全然わかってないんだな。

あいつこそ、入院すりゃいいんだ。

頭、おかしいんじゃないか。」

「・・・お兄ちゃん・・・

いっつも、心配かけて、ごめんね。」

「何言ってんだ。

お前の事、心配すんの、当たり前だろ。

ちゃんと、面倒見てやらなきゃ、父さんと母さんに、叱られちゃうからな。」

「・・・そう・・・ね。

お父さんもお母さんも、私の事、心配してくれてるよね。」

「何、決まり切った事、言ってんだよ。

すぐにでも、連れて帰りたいところだが、仕方ない、とにかく今夜はここに居てやるから、ゆっくり休めよ。」

「居てくれるの。」

「ああ、だから安心して寝ろ。」

 

翌日は、入浴日だった。

お守りを引出に仕舞って、浴室に入った。

週に二回の入浴は、気持ちがいい。

髪も洗ったので、ちょっと疲れた。

薬を飲んで、いつもより早めに、眠ってしまった。

もう朝?

ああ、まだ3時だわ。

私はトイレに立った。

薄暗い廊下は、ちょっと不気味だ。

用を足して、トイレのドアを開けると、

「やっと、会えたわ。」

あ・・・・・

「ずっと、待ってたのよ。

あのお守りを外すのを・・・」

私は、不意打ちを食らって、立ちすくんだ。

彼女と向かい合ったまま、動けない。

「ひどいじゃない。

私を一人ぼっちにして・・・」

否応なしに、その顔を、見せ付けられる。

「お願いだから、いっしょに来て。

さあ、こっちへ・・・」

彼女は、階段のほうへ行こうとしている。

「さあ、早く。」

私の体は、何かとてつもなく強い力で、引っ張られていく。

いや、行きたくない。

「行くのよ、私と。

すぐに楽になれるわ。」

行かない、行きたくない。

「さあ、こっちよ。」

私は、全身の力を振り絞って、踏みとどまろうと踏ん張っていた。

「なによ!

生きてても、なんの役にも立たないくせに、なんの為に生きようって言うのよ。」

訳の解らない怒りが、込み上げて来る。

なんの権利があって、そんな事言うの。

私は、私のものじゃない。

「そうよ!

私は、この命を生かす為に生きるわ。

あなたなんかの言うなりにはならない!」

「なんですって?!

そんな風になって、それでも、生きてるって言えるの?

あなた、一人じゃ、なんにもできないくせに。」

「関係ないわ!

今の私が、どうであれ、私は私よ。

両親が、産んでくれた大切な命よ。

私は、この命を護る務めがあるの。

あんたなんかの指図は、受けない。

さっさと、消えてちょうだい。」

彼女は、一瞬、周りの空気を、凍らせてしまうんじゃないかと思うほど、冷たい、哀しい、表情を見せた。

その顔を、私は、キッと見据えた。

精一杯の力で、彼女の念と、戦っていた。

長い時間・・・

永遠とも思える時間・・・

つ・・・と、緊張が途絶えた。

あの時と同じ笑みを浮かべた彼女は、次の瞬間、掻き消すように、消えてしまった。

 

「もしもし、あ、お兄ちゃん?

ちょっと、お願いがあるの。」

「ああ、なんだい、珍しいな。

お前が、お願いだなんて・・・」

「ええ、悪いけど、市役所に行って、離婚届の用紙、貰って来てくれない?」

「お前・・・そうか・・・

ようし、明日、朝一で行って、その足で、持ってってやるよ!」

「お兄ちゃんったら・・・」

 

私は、自販機で、レモンティーを2本買った。

談話室のいつもの席に、一本置いて、もう一本をゆっくりと、飲み干した。

 

 <END>

 

 

パニック障害な私  28

雑記「パニック障害な私」は、

下記リンク先へ、移動致します。


http://network.fc2.com/diary/index.php?vid=18548&categ=1&year=2005&month=6&id=1118638258_18548



詩、小説は、いままで通り、

こちらへアップ致します。

引き続き、よろしくお願いします。

パニック障害な私  27



少しだけ、片付けをした。

少しだけど、気持ちいい。

少しずつ、続けられればいいな。

毎日、少しずつ・・・

そしたら、こんなに散らかってる部屋も、

少しずつ、きれいになるかな。

毎日、物が増えていくから、

追いつかないかもしれない。

どうでもいい物ばかりが増えて、

本当に大切な物は、

どこに行っちゃったかわからない。

必要な物を探し出すのは大変だ。

あちこち、引っかきまわさなきゃ、

出てきてくれない。

そしたら、また散らかってしまう。

ああ、また振り出しだ。



ポチッとお願いします。
 
  ↓

Blog Ranking



にほんブログ村 メンタルヘルスブログ パニック障害へ




こんなブログもやっております。

短歌とCGイラストのコラボです。

お暇な時にでも、おいでいただければ、うれしいです。

   ↓


<私史心象>


パニック障害な私  26



小説を、一編書いた。

書いている時が、一番楽しい。

書き終えてしまうと、

なんだか妙に寂しくなる。

なんだかねぇ。

よくわかんないけど、

その繰り返し。



ポチッとお願いします。
 
  ↓

Blog Ranking


にほんブログ村 メンタルヘルスブログ パニック障害へ




こんなブログもやっております。

短歌とCGイラストのコラボです。

お暇な時にでも、おいでいただければ、うれしいです。

   ↓


<私史心象>


池の辺にて (1)



公園の池の辺に腰を降ろして、

私はいつも空想を巡らせていた。

何時間でも、じっとしていられた。

心だけは、縦横無尽に飛び回り、

窮屈なこの体へ戻って来るのを嫌がった。

日々移ろいゆく季節の彩りを眺めてさえも、一日なんて、あっという間に過ぎる。

鳩の仕草を観察していても、

風船の行方を追いかけても、

子供達の遊ぶ様子を眺めていても、

日が暮れるまで、

私はいつもそこに居た。


ある日、私の前に一人の男の子がやってきた。そう年は違わないみたいだ。

「何をしてるの?」

「眺めてるの。」

「なにを?」

「何って、何でも・・・」

「何でも?」

「そう、眺めるものは、たくさんあるわ。」

「たとえば?」

「ほら、あの犬、散歩してる。

大きな犬ね。

連れて歩いてる子供のほうが小さいわ。」

「それで?」

「さっきから、犬が言うこと聞いてくれなくて、半分泣きべそ・・・うふふ。」

「ほんとだね。」

彼は、私の隣に腰を降ろした。

「もう少ししたら、あの子のお兄ちゃんが、戻ってきてくれるのよ。」

「どうしてわかるの?」

「さっき、いっしょにここへ来て、お兄ちゃんは、仲間達と、サッカーやってるの。

だから、もうすぐ、日が暮れるから、弟のところに戻ってくるの。」

「ふーん。」

彼は、あまり興味なさそうに聞いていた。

「あなたは、なぜここに居るの?」

「僕は・・・なんでだろうなぁ。

なんだか、家に居たくなくて・・・

なんとなく、ぶらぶらしてた。」

「そう、家って窮屈だもの。

あんな所にじっとしてなんかいられやしないわ。」

「ああ、そうだね。

まったくだ。

家って、窮屈なんだ。」

「でしょ、だから、私はいつもここに居るの。」


彼は、次の日も来た。

「ねえ、ずっとここに居て、退屈じゃない?」

「退屈?

退屈って、どんなこと。」

「え?・・・

そりゃ、退屈っていうのは・・・」

「あ、見て見て。

水鳥が、舞い降りてきたわ。

あれって、なんていう鳥かしら?」

「さあ、僕、あんまり知らないから・・・」

「ふふふ・・・

すごく楽しそう。

ね、水浴びしてるのかな?」

「さあ、そうかも・・・」

「あっ、また来た。

1,2,3・・・6羽ね。」

「君、高校生?」

「え?・・・うん、そう。」

「学校、どこ?」

「いいじゃない、どこだって。」

「ああ、そうだね。

じゃあさ、大学とか行くの?」

「大学?・・・そうね。

大学って、行ってみたいわ。」

「そう、志望校は?」

「ああ、そんなのは、ないの。」

「ない?・・・ったって・・・」

「んー、ねえ、大学って、なんかいいわ。

なんか、かっこいいわ、大学生って、」

「かっこいい?」

「そうよ、大学行って、一人暮らしして、

アルバイトして、楽しそう・・・」

「ああ・・・そう・・・ね。

そうだといいね。」

「あなたは、どこか受けるの?」

「ん、いちおう、ね。

T大を・・・」

「ええっ!

それって、すごいことじゃない。」

「すごい?」

「そうよ。

私なんか、そんなとこ受ける友達一人もいないわ。

クラスの中には、いるみたいだけど。

すごいわ、優秀なのね。」

「僕は・・・僕、ほんとは・・・

T大なんか、行きたくないんだ。」

「え、なんで?

入れるんでしょ?」

「今のところ、担任はそう言ってるよ。

でも、僕は、ほんとは、美大に行きたいんだ。」

「美大ですって!

美大って、最高に素敵じゃない。」

「そうかな?」

「そうよ。

ああ・・・び・だ・い・・・

なんて素敵な響・・・」

「でも、両親に反対されてる。」

「あら、どうして?」

「美大なんか出て、どうするんだ?

・・・って・・・」

「どうするって?

あなた、絵を描くの?

それとも、彫刻? イラスト? 版画?」

「油絵だよ。」

「まあぁ、ほんとに素敵。

ねえ、あなたの絵、見せて欲しいわ。」

「そりゃあ、いいけど・・・」

「美大を出て、画家になるんでしょ?

すごく、素敵な事じゃない。

そしたら、こんなきれいな空とか、

木とか、花とか、人とか、

なんでも、好きなものを描けるんだわ。」

「ああ、そうだね。」

「あ、ねえ、いつか・・・

いつでもいいの。

私の絵、描いてくれない?

私、自分の肖像画って、

一枚も持ってないの。」

「あんまり持ってる人はいないと思うけど、

いいよ、君を描いてあげるよ。

いつか、きっと・・・」

「そう、ほんとに?

いつでもいいの。

ずーっと先でもいいのよ。

あー、楽しみだわ。」


 <つづく>



 

 

 

 

 

 

 

池の辺にて (2)



私たちは、とりとめもなく、お互い、自分の言いたい事だけ言って、言いたくない事は、言わなかった。

言う必要もなかった。

公園の風景は、いつも同じように見えるけど、いつも同じじゃない。

白い雲が浮かんでたり、風がひどく吹いたり、子供たちがたくさんいる時もあれば、

人影がまばらなこともある。

飽きることなんてない。

刻々と、景色は変わっていくのだから・・・


しばらくすると、彼は、ぱったり、姿を見せなくなった。

私は、いつものように、池の辺にすわって、眺めていた。

空や、木や、草、花、蝶、鳥、水面の波紋、風の通り道、子供たちの声、空気の色・・・

彼がいないと、やっぱり、少し、寂しい。


寒くなってきたので、私も家にいることが多くなった。

家にいる時は、編み物をしていた。

熱いココアを飲みながら・・・

窓の外を眺めながら・・・

好きな音楽を聴きながら・・・

部屋をうんと暖かくして・・・


私にも、受験シーズンは、やってきた。

が、あんまり、関係なかった。

成績がすごく悪かったので、どこも入れる大学なんかなかったから・・・

仕方なく、就職斡旋の窓口へ行った。

就職のほうは、簡単だった。

別に、どこでもよかったので、目に付いた会社を受けに行った。

「4月から来てください。」

と、言われた。


卒業式が、終わって、入社するまでの間、自由の身となった。

いつでも、私は、自由にやってるけど、ほんとに、まるまる自由だった。

だから、毎日、公園の池の辺に居た。

勤め始めたら、もうこんな事も、あんまりできなくなるなあ・・・

友達は、皆それぞれの、大学へと、旅立っていく。

時々、駅に、見送りに行った。

地元に残る子は、少ない。

私は、ちょっとばかり、感傷的になっていた。


久しぶりに、本当に、久しぶりに、彼はやって来た。

私は、なんだかすごく懐かしい気がして、ちょっと、涙が出そうになった。

「久しぶりだね。」

「うん。」

「ずっと、忙しくしてたから、ここへ来るの、何日ぶりかなぁ。」

「忙しかったの?」

「ああ、そう。

5校、受けてきたよ。」

「五つも?」

「そうなんだ。

親が、あちこち受けとけって、うるさくって。」

「それで、美大は?

美大は、どうだったの?」

「・・・・・美大・・・か。」

「そうよ、美大よ。

受けたんでしょ?」

「いや・・・」

「え?」

彼は、長い間、口を(つぐ)んでいた。

まるで、次の言葉を口にするのを、恐れているみたいに・・・

私は、じっと、待っていた。

待つのは、得意だから、何時間でも待てる。

池を眺めていた。

鳥が舞い降り、また飛び立って行った。

風が、そよと、一筋、吹き過ぎた。

静かな時間が、漂っていた。


突然、子供の泣き声がした。

弾かれたように、私たちは、はっと、現実に引き戻された。

「美大は、受けなかったんだ。」

「そう・・・」

「T大へ入れたから、そこへ行く。」

「そう・・・」

「明日、発つんだ。」

「そう・・・」

「これ、君に。」

「・・・・・」

「渡そうと思って、鉛筆でしか描けなくて、油絵の道具は、全部、捨てられちゃったから。」

「・・・・・」

「君の顔、笑顔ばかり、思い出してたよ。」

それは、すごく、丁寧に描いてあった。

私の笑ってる顔。

私、こんな風に笑ってるのね。

「ありがとう。

本当にありがとう。

私、これ、宝物にするわ。」

「そうだね。

僕の最後の作品だからね。

君に持っててもらえたら、嬉しいよ。」

私は、なんだか、熱くなって、顔を拭ってみると、涙が出ていた。

「君に会えて、よかった。

楽しかったよ。

また、帰ってきたら、ここに来てみるよ。」

「そう?・・・私も・・・

楽しかった・・・わ・・・」

「また、きっと、来るよ。

きっと、君に会いに来るから・・・」

まるで、自分に言い聞かせるように、彼は、何度も、そう言った。

あなたは、もう、来ない。

きっと、もう、来ないわ。

私のこの世界には、もう、戻ってこれないわ。

でも、ありがとう。


彼は、名残惜しそうに、帰って行った。

何度も、振り向きながら・・・

何度も、手を振りながら・・・

木立ちの向こうへ消えて行った。

 

 <END>



 



パニック障害な私  25



結局、今日一日、

パソコさん(私のパソコンの名前)と、

過ごしてしまった。

ブログを、二つやっているので、更新したり、

フリマにも、新商品を追加したり・・・

こんなんでいいんでしょうか・・・

自問自答な毎日です。



ポチッとお願いします。
 
  ↓

Blog Ranking



にほんブログ村 メンタルヘルスブログ パニック障害へ




こんなブログもやっております。

短歌とCGイラストのコラボです。

お暇な時にでも、おいでいただければ、うれしいです。

   ↓


<私史心象>


パニック障害な私  24



どんより~

夜中の3時から朝7時位までは、

元気だった。

植木を一本、剪定した。

これが、結構おもしろい。

やり始めると、止まらない。

2時間程、かかっただろうか。

んー、よいぞ。

すっきりしたぁ。

・・・と、ここまではいい。

ほう、と一息吐いた途端、

だーっと、急降下した。

薬も忘れて、寝てしまった。

やっと、起きたのが、12時。

それも、夢と現うつつを行きつ戻りつ、

うにうにと蠢うごめき、

なんとか、現の端っ切れをつかみ、

うだうだと起き上がるという始末だ。

なぜ、こんなに、気分が悪いんだろう。

あー、夜寝て、朝起きる、

健全な生活がしたいよー。


ポチッとお願いします。
 
  ↓

Blog Ranking



にほんブログ村 メンタルヘルスブログ パニック障害へ




こんなブログもやっております。

短歌とCGイラストのコラボです。

お暇な時にでも、おいでいただければ、うれしいです。

   ↓


<私史心象>


パニック障害な私  23



4時に起き、

9時に寝て、

12時に起きた。

すぐに薬を飲む。

う~~~

ぼーーー

へろ~~

だら~ん

よろよろ・・・

昨日作ったサラダの残りを食べる。

玉ねぎが、辛い。

ピリピリ。

これじゃあ、ただの怠け者。

・・・かなあ?

と、思いつつも、

夕食の献立を、脳みその隅っこで、

ひねたり、こねたり、してみる。

取り込んだままの洗濯物が山となり、

私を見下ろしている。

「いつまで、こうしてろってんだ。」

ああ、失礼。

今日こそ、片付けますです、はい。

と、弱弱しい誓いを立てる。

さて、やっと、頭の中身が、

目覚めてきた。

何か、やらなくては・・・


ポチッとお願いします。
 
  ↓

Blog Ranking



にほんブログ村 メンタルヘルスブログ パニック障害へ




こんなブログもやっております。

短歌とCGイラストのコラボです。

お暇な時にでも、おいでいただければ、うれしいです。

   ↓


<私史心象>



パニック障害な私  22



4時から起きてる。

パソコンやってる。

今日は、フリマに出品。

なかなか、写真は難しい。

こんな事ばかりしていれば、

楽しいけど、そうもいかない。

一応、主婦だし、

家事が、滞りがち。

私は、我儘になったような気がする。

病気ってことに、甘えてるのかもしれない。

できる事は、しなきゃいけない。

なんで、こう、だらだらしてしまうんだろう。

眠ってる時が、一番幸せ、なんて、

なんたる不届き者。

眠るために、起きている。

なんて、まさに、主客転倒。

スイッチを切り替えなくちゃ。
   

ポチッとお願いします。
 
  ↓

Blog Ranking



にほんブログ村 メンタルヘルスブログ パニック障害へ




こんなブログもやっております。

短歌とCGイラストのコラボです。

お暇な時にでも、おいでいただければ、うれしいです。

   ↓


<私史心象>



パニック障害な私  21



<今日出来た事>

  煮物とサラダを作った。

  布団カバーを取り替えた。
  仏壇の掃除。

  和室の掃除。

  浄水器のフィルター交換。


  
<出来なかった事>

  洗濯物を畳んで仕舞う。

  次の洗濯。




<本日の減点>

  夫を怒らせてしまった。




<反省>

  大事な事を優先すべし。
  

ポチッとお願いします。
 
  ↓

Blog Ranking



にほんブログ村 メンタルヘルスブログ パニック障害へ




こんなブログもやっております。

短歌とCGイラストのコラボです。

お暇な時にでも、おいでいただければ、うれしいです。

   ↓


<私史心象>



パニック障害な私  20





もうどこへも行けやしない。

行かなくていい。

行きたくもない。



どうせ何も解ってくれやしない。

解らなくていい。

解ってもらいたくもない。



何もしてくれやしないんだから。

何もしてくれなくていい。

何もしてほしくもない。



すべて裏返しの心。

なんて歪んだ心。

もっと素直に

本当はなりたい。











パニック障害な私  19



耳鳴りがする。

自分を責める時、必ず、遣って来る。

頭がキリキリする。

卑屈になると、必ず、悲鳴を上げる。

動悸が打つ。

陰性感情が、支配する。

次第に、体全体が、拒否し始める。

手が震える。

汗を掻く。

全身が、身構える。

硬く扉を閉ざす。

人と話したくない。

人の目を見たくない。

人に見られたくない。

喧しいテレビは要らない。

煩い音楽には、耳を塞ぐ。

厚かましい映像など消してしまえ。

何もなければいい。

何もかも消えればいい。

私の周りから、

すべて消え去ってしまえば!



きっと、眠れる。




ポチッとお願いします。
 
  ↓

Blog Ranking



にほんブログ村 メンタルヘルスブログ パニック障害へ




こんなブログもやっております。

短歌とCGイラストのコラボです。

お暇な時にでも、おいでいただければ、うれしいです。

   ↓


<私史心象>


眠りの街 (1)


ここは、どこなの?

私、どうして、こんな所にいるのかしら?

突然、私は、見知らぬ街角に立っていた。

なんだか、おとぎの国みたい・・・

いろんな家が、並んでいるが、どれも、一風変わっていた。

丸っこい家、三角の家、瓢箪型の家、船の形、テレビ、林檎、魚、井戸、風船、飛び出す絵本、切り株、トンネル、どれも家だった。歩き回っているうちに、ブーツ型の家が、見えてきた。

ふと、立ち止まると、後に人の気配がする。私と同じ年恰好の(と言っても、私、一体、いくつなのかしら?)、女の子が立っている。

「あら、私、ここが空いてるって、聞いて来たの。あなたは?」

え?・・・

「わからないの。

来たばかりで、ここって、どこなのかしら?」

「あなた、案内所に寄らなかったのね。

早く家を見つけなきゃ、眠れないわよ。

ほらっ、もう日が暮れるもの。」

今しがた、真上にあった太陽(かしらね?)が、もう山際まで迫っていた。

「もう、時間がないわ。

ね、いっしょに入りましょ。」

と、その娘は言った。

「早く、急がなきゃ、暗くなる前に、入らなきゃ、取り残されちゃうのよ。」

何が何だか、わからないまま、私はその娘と二人で、ブーツの家へ入っていった。

ブーツの編み上げの紐を、よじ登って、上から入るのだった。

天井はない。

あっという間に、空は暗くなり、星が瞬き出した。

星たちは、色とりどりの金平糖にそっくりだ。

「さっ、寝ましょ。

ベッドが一つしかないけど、いっしょに入れるでしょ。

私、アンナっていうの。

あなたは?」

「私? 私、誰なのかしら?

忘れちゃってる。」

「ああ、よくある事よ。

自分で勝手に、名前、付ければいいの。

みんな、そうするのよ。

中には、覚えてる人もいるらしいけど・・・」

「じゃ、アンナも?」

「そう、考えたの。いい名前でしょ。」

「私は・・・私は、マノン!」

「きゃっ、素敵、いいわよ。

とても、似合ってるわ。」

「そう? ありがと。」

こうして、私たちは、一つのベッドに、寄り添って眠った。


いったい、どれくらい眠っていたのか、わからない。

ずいぶん、長い時間、寝てたような気がする。

「ね、マノン、起きて。」

「え、あ、朝なの?」

「朝と言えば、朝だけど、昼とも言えるわね。」

そうなの?

「さあ、どうする?

マノン、ここでいっしょに暮らさない?

それなら、もうひとつ、ベッドが要るしね。」

「あ、そうね、ここで、いっしょにいられたら、嬉しいわ。」

「まあ、私も嬉しい。

じゃ、急いで、探しに行かなきゃ。」

「ああ、ベッドね。」


私たちは、人通りの多い道を、どんどん歩いて行った。

どこへ行くのかしら?

どこって言ったって、私、どこも、知らないんだったわ。

やがて、「夜具山」と書いた道標が立っている坂道に差し掛かった。

登って行くうちに、道の両側に、いろんな「夜具」が並べてある。

すっごく大きな鉄製のベッド、ちいちゃなベビーベッド、ハンモック、天蓋付きのお姫様みたいなベッド、ロッキングチェアー、寝袋、ほんとに、いろんな物があった。

「あなた、どんなのが好き?」

「んー、畳に敷くお布団、ないかしら?」

「ああ、そういうの、見たことあるわ。

もうちょっと、上の方じゃないかしら?」

山の中腹あたりに、畳や布団が、たくさん重ねてあった。

私は、中くらいの大きさのを選んで、家へ運んだ。

すると、もう、日が暮れ始めている。

「なんだか、一日って、あっという間ね。」

「ここでは、夜の方が、うんと長いのよ。

そう、ねえ、眠るための街なのかもしれない。

でも、もうすぐ、お祭りがあるから、その夜は眠らなくてもいいの。

っていうか、眠っちゃダメなの。」

「一晩中、起きてなきゃいけないの?

眠くなったら、どうすればいいのかしら?」

「そのために、みんな、いろいろ、考えるのよ。

その日のために、一年間、考え続けてるの。

いろんなゲームとか、ダンスとか、おもしろい本を探しておくとか、何かその日にする事をね。」

「じゃぁ、私たちも、何かかんがえなきゃ。」

「うん、そうね。

でも、明日は、ドレス探しよ。

お祭りの日に着るドレス。」

「ふーん、なんか、楽しみね。」



 <つづく>


 

 

 

 

 

 

眠りの街 (2)



「総装総美街」って、立て札が立ってる。

道の両脇には、まるで、フリーマーケットの大会でもあるのかと思うくらい、装飾品の山、山、山・・・

私たちは、手当たり次第に、山を崩しまくった。

「出来るだけ明るい色がいいわね。

気分が高揚するでしょ。

少しでも眠くなりそうな物は、避けた方がいいわ。」

「なるほど、そうね。」

彼女は、目の覚めるようなペパーミントグリーンのドレスに黄金のテイアラ、エメラルドのネックレスを選んだ。

私は、真っ赤な薔薇模様のドレス、髪飾りも薔薇の花、三重のダイヤのネックレスに決めた。

「あ、いけない!

もう、日が落ちるわ。」

「急ぎましょ。」

あっという間に、夜が来て、また眠る。

眠るのは、いやじゃない。

ここへ来てから、とっても、いい気持ちで眠れるようになった。

え? じゃあ、その前は?

どうだったのかしら?


「今日は出かけなくて済むわね。

一日中、お祭りの日にする事を、考えましょう。」

「お祭りって、いつなの?」

「明日よ。」

「え、明日?」

「そう、だから、急がなきゃ。」

私たちは、思いつく限りの、遊び、ゲーム、ダンス、歌、などなど、紙にメモしていった。


いよいよ、祭りの日は来た。

朝早くから、花火が、パンパン、鳴っている。

人々は、みんな、ゾロゾロ、家を出て、お祭り広場へ向かう。

色取り取りの人の波が、通りを埋め尽くしていく。

お祭り広場は、こんもりとした林の中にあった。

広場の奥には、可愛い形のお城が建っている。

誰も彼も、この日の為に、装いを凝らし、大好きな友達や、ボーイフレンドと、連れ立って集まって来た。

「さ、まずは、腹ごしらえよ。」

「一年で、一度だけの食事だもの、うんと食べとかなくちゃ。」

「あら、そう・・・」

そういえば、ここに来てから、空腹を感じたことは、一度もなかった。

それなのに、今日は、起きた時から、喧しくお腹が鳴っているのだ。

広場には、泉が二つあり、皆、喉を潤していた。

「あら、なんだか、美味しそう。」

「あっ、ダメ!

そこはダメよ。

その泉は、眠り苺のリキュールだわ。

これを飲んじゃ、即、眠らされてしまう。」

「ふう~、危ないとこだったわ・・・」

「さ、こっちの覚醒葡萄のワインなら、いくら飲んでも平気、目が冴えちゃうの。」


林の木々の間には、食事中の人たちが、あちらこちらに、座り込んでいる。

いろんな木に、いろんな食べ物が、()っている。

パンの木、フィッシュフライの木、ベークドポテト、キッシュ、ステーキ、パセリ、スパゲティ、おにぎり、焼き鳥、鰻、八宝菜、キャビア、プディング、ハンバーガー・・・・

ああ、もう、とても、数えてなんかいられない。

ホテルのバイキングだって、こんなにたくさんのメニューは、置いてなかったわ。

って、ホテル? に、行ったことあるのかしら? 私って・・・

ま、いいか。

とにかく、一晩中、起きてて、遊んでればいいんでしょ。

そうすれば、また、明日の夜からは、眠れるんだもの。

楽勝よね。

「もう、お腹一杯だわ。」

「私もよ、」

「広場に行って、遊びましょ。」


 <つづく>




眠りの街 (3)



広場は、人だかりで、ごった返していた。

楽団、踊り子、大道芸人、ポーカーのテーブル、ダーツ、花札、おはじき、お手玉、縄跳び、ハンカチ落とし、ありとあらゆる遊びが繰り広げられている。

私たちは、次から次へと、参加したり、見物したり、眠ることなど、もう頭の中から、抜け落ちてしまっていた。

「ああ、面白い。」

「ほんと、今日って、最高ね。」

そこへ、アンナのボーイフレンドらしき男の子が現れた。

「やあ、探してたんだ。」

「こんばんは。」

「彼、ナポレオンっていうの。

彼女は、マノン、いっしょに住んでるの。」

「よろしく。」

「こちらこそ。」

「ああ、ちょっといいかな。

アンナと踊ってきても?」

「どうぞ、どうぞ。

私、もう、疲れちゃったから、ここで見てるわ。」

私は、木に根っこに腰掛けて、ぼんやりしていた。

すると、

「お嬢さん」

・・・・・

「お嬢さん」

暗がりの中から、声がする。

黒い頭巾をかぶったお婆さんが、私に話しかけている。

「お嬢さん、あなた、いつまでもここにいちゃ、いけない。

帰る所があるのなら、早くお帰り。」

「え?

私、帰る所なんて、知らないの。

何にも覚えてないのよ。」

「覚えてなくても、いいんじゃよ。」

「さあ、これを飲みなされ。」

「あっ、これは・・・」

「そうじゃ、眠り苺のリキュール。

これを飲めば、すぐに帰れる。

みんな、知ってるが、誰も帰りたがらないんじゃ。」

「なぜ?」

「帰っても、居場所がないんだよ。

そういう奴等ばかりなのさ、ここは・・・

さ、早く!」

「でも、アンナが・・・」

「アンナが戻って来たら、もうダメだよ。

チャンスは、今しかないんじゃからな。」

その時、私の脳裏にはっきりと、家族の顔が浮かんできた。

「お父さん、お母さん・・・」

ああ、私、何もかも思い出した。

思い出しちゃった・・・

突然、涙が溢れ出し、広場の喧騒が、ぼやけて見える。

「アンナ、どこにいるの?

見えない、もう、何も見えない。」

賑やかな音楽や話声さえ、遠のいていく。

「早く、急いで!」

私は、眠り苺のリキュールを、一気に飲み干した。

「アンナ、ごめんね。

さよならも言わないで・・・

アンナ、もう会えないのね。

優しくしてくれて、あり、が、と・・・」


「真理子っ!」

「真理子、気が付いたのか。」

「真理子、真理子・・・」

「あ、ああ・・・

んー、私・・・」

「よかった、よかったわ、気が付いて・・・

ああ、ほんとによかった・・・」

「お母さん・・・」


そう、そうだった。

私、睡眠薬を飲んで・・・

そうよ、何日も眠れなくて・・・


「あんたったら、もう、心配させて。

母さん、生きた心地、しなかったわよ。

まったく、なんで、こんな事になる前に、相談してくれなかったのよ。」

「よせよ、そんな、頭ごなしに・・・」

「だって、だって・・・」


何日も、眠れなくて、辛くて、食欲もなくて、なんにもやる気が起きなくて・・・

なんだか、もう何もかもがどうでもいいやって思って・・・

それで・・・


「まあ、とにかく助かってよかったよ。

お前、三日も眠ったままで、このまま、永久に目を覚まさないんじゃないかって、ずいぶん心配したんだよ。」


それで、あの夜、薬をいつもの何倍も飲んで、ああ、これで、やっと眠れるって・・・

ずっと、眠っていたいって、思って・・・

嫌な事、何もかも忘れて、ずーっと、眠ったままでいたいって・・・

そう・・・

そう、思って・・・

でも・・・

でも、よかった。

帰ってこれて、よかった。

お婆さん、

私の居場所、ちゃんとあったわ。


 <END>


 

パニック障害な私  18



ちょっと、調子が良ければ、もう治ったかのような気分になり、溜まっている家事やら、事務やら、いろいろ、やりたくなってくる。

が、どうかすると、またすぐ、波は引いていく。

一日中、なんだか具合悪い、となると、もう私は、何にもできないんだ、と、ひどく、悲観的になる。

「何かしなくちゃ」といつも頭の中で、自分の声が木霊する。

結局、何もできず、一日は過ぎ、自己嫌悪とも、焦燥感ともつかない、どんよりした気分で、夜が来る。

「何もしなくてもいいんだ」と思えるようになった時、何かが、できるようになるのかもしれない。

この重苦しい感情から、早く解放されたい。







パニック障害な私  17





薬を飲むのを、忘れていた。



夜中3時に、起きた。

ブログの更新とか、してるうちに、

明るくなってきた。

ワイパックス0.5mg 、一錠。

庭の花達を、見てまわり、

あれこれ、世話を焼いて、

8時頃、トーストとコーヒー。

ワイパックス、一錠。

眠くなったので、寝た。

10時半頃、目が覚め、

また、パソコンを開く。

12時頃、昼食。

食欲、あまりない。

ご飯、温泉卵、ミニトマト、キムチ。

今日こそは、と、思い立ち、

夕食の準備にかかる。

キャベツを切っていると、

いきなり、動悸が、来た。

あ、忘れてた。

薬。

8時20分に飲んでから、

ずっと、飲んでない。

う~~~~~~~~~

く、薬~~~~~~~

なんか、ヤク中みたい・・・

慌てて、ワイパックスを飲む。

しんどいながら、

一品は、仕込んだ。

今日は、事務はできないか。

なんだか、鬱~な気分。

母が帰ってくれば、

ご飯は炊いてくれる。

あとは、

冷凍してあるスパゲティの残りと、

海草やらハーブやらで、サラダ。

なんとか、

お惣菜を買わずに済みそうだ。

あー、やっぱ、しんどいか・・・

寝るしかないかなぁ。









眠りの街・Second Version (1)



なんて、ついてないんだろう。

私って、可哀そうな女よね。

この年になって、やっと、恋人ができたっていうのに、こんなひどい結末ってないわ。

うぅ・・・

ああ、涙がでそう・・・

やっぱり男なんて、みんなおんなじなのね。

綺麗で、要領がよくて、甘え上手な女が好きなのね。

ぐすん・・・

私なんか、器量も悪いし、気も利かないし、思ってることも、上手く口に出せないし、ダメよね。


終電前の駅は、結構、混んでいる。

発券機の前には、列ができていた。

空いていそうな列の最後に並んで、順番を

待っていると、横合いから、割り込もうとする人に、押されて、突き飛ばされた。


痛っ、いたーい・・・

もう、ひどいじゃない。

・・・仕方ないわ。

こっちの列でもいいわ。


「どうぞ、次の方。」


え、私?

あら、ここ、空いてたのね。


「はい、350円です。」


350円ね、はい。

あら、私、行き先、言ったかしら?


切符を持って、改札口へ行くと、

「あ、これは、18番ホームですから、

お間違えのないように。」

「ああ、そうですか。」


私は、18番ホームに向かった。

え、ちょっと、待って、ここ、17番までしかないでしょ。

慌てて、切符を見ると、なるほど形は、切符のようだが、きれいな紫色に、18と刷ってあるだけだ。

行く先も何も、書かれていない。

変ね。

通りかかった駅員に、

「あの、これ・・・」と、言いかけた途端、

「あ、これは、一番端の乗り場です。

まもなく、列車が入りますので、お急ぎください。」

「え、あ、はい。」


私は、18番に向かって、小走りに急いだ。

すると、折しも、列車が滑り込むのと、同時だった。

12~13人の人が、乗り込む後を、私もついて、列車に乗った。

乗ってしまった。

行く先も知らないのに・・・

もう、どうでもいいわ。

もう、何も考えたくない。

何もかも忘れて、眠りたいだけ・・・


列車は、あっという間に、街を出て、郊外の田園地帯を走っている。


こんな近くに、こんな風景あったかしら?

なんだか、すごーく、田舎って感じよね。


車内は、閑散としている。

この車輌には、5~6人しかいない。

みんな、ばらばらに、一人で座っている。


どの位、経ったのだろうか。

列車は、ゆっくりと、速度を落とし、やがて止まった。

ドアが開き、誰もが、ここで降りるらしい。

私も降りてみた。

改札まで歩きながら、ふと、振り向くと、もう列車の姿は、跡形もなく、消えていた。

私は、それが、なんだか、普通の事のように思え、驚きもしなかった。

自動改札機に切符を入れ、出てきた切符を取ったつもりだったが、それは、さっきの切符とは、違っていた。

緑色のカードに215と数字が刻印されている。

私は、もう何が起きても、別段、不思議とも思わず、駅を出た。

目の前に広がる風景は、一種異様な光景だった。

全く同じ建物ばかりが、道の両脇に並んでいる。

見渡す限り、それ以外の物は何もない。

私は、道を歩いてみた。

今、列車を降りた人たちも皆歩いていた。

そのうち、一人、二人と、建物の一つを見定め、その中へ消えて行った。

突然、私の手にしたカードが、緑色に光り始めた。

そこで足を止めてみると、215番と書かれた家があった。

家といっても、真四角なサイコロみたいな物で、入り口のドアの他は、窓もない。

近づいて行くと、ドアは勝手に開いた。

私は、恐る恐る、中へ入って行った。



 <つづく>




眠りの街・Second Version (2)



「どうぞ、お掛けください。」

天井から声がした。

目の前には、ATMに似た機械と、ソファーがあった。

座ってみると、素晴らしく、心地いい。

「お飲み物をどうぞ。」

ATMのモニターに、メニューが現れた。

カフェラテ、ストレートティー、グリーンティー、カモミールティー、ラムネ、ミルクシェイク、ミックスジュース、って、これ、私の好きな物ばかりだわ。

迷っちゃうわぁ。

どうしよう。

ああ、最近、飲んでないからカモミールティーにしよう。

「かいこまりました。」

ATMの右端の小さな扉が開き、カモミールティーが出てきた。

んー、美味しい。

そのうち、室内は、だんだん暗くなり、奥の壁にスクリーンが降りてきた。

「ドキュメント」

という文字とともに、映像が映し出された。

どうやら、出産のシーンらしかった。

カメラは、分娩台の上で、苦しそうに喘いでいる女性のアップを捉えた。

えっ!?

次に、病院の廊下を、行ったり来たりしている男性を映す。

ええっ!?

お母さん。

お父さん。

じゃあ、これから生まれてくるのは、私?

私は、スクリーンに、見入っていった。

それは、私の成長のドキュメントだ。

私に関わる人たちを、丁寧に記録している。

私が生まれて、喜んでいる両親。

おばあちゃん、おじいちゃん、お兄ちゃん・・・

私が成長していくまでの、数々のエピソードを、余すことなく、映し出していく。

自転車で転んで、怪我したこと。

友達と喧嘩したこと。

部活で、先輩に苛められたこと。

高校に受かったこと。

お母さんに反抗してたこと。

お父さんに叱られたこと。

様々なシーンが、懐かしさと共に、甦る。

ああ、そう、あんなこと、あったわ。

これも、覚えてる。

私は、知らず知らず、涙が溢れ、視界が歪んできた。

すると、ATMは、すかさず、ハンカチを出してくれた。

お母さん・・・

長いこと、電話もしていない。

私は、急に母の声が聞きたくなった。

今度は、電話機が出てきた。

受話器を取ると、呼び出し音が鳴っている。

「もしもし」

ああ、お母さんの声・・・

「あ、私・・・」

「まあ、どうしたの?

何か、あったの?

急に、電話かけてくるなんて・・・」

「ううん、何でもないの。」

涙が、止まらない。

「お母さんの・・・声、聞きたくなっちゃって・・・」

「なあに、珍しいこともあるもんね。

普段、全然、連絡してこない癖に。」

「この間、送ってくれた野菜、美味しかった。

荷物着いても、電話もしないで、ごめんね。」

「いやに、殊勝なこと、言って・・・

どうなの?

元気にしてんの?

変わりはない?」

「ええ、元気よ。

お母さんは、みんな、元気?」

「こっちは、相変わらずよ。」

「今度のお休みに、帰るわ。」

「そう!

じゃあ、あんたの好きな混ぜご飯でも作ろうかしら。」

「うん、うん、」

私は、だんだん鼻声になってきた。

「やだわ、この子ったら、泣いてるの?」

「帰る、絶対に帰るから・・・」

「ええ、みんなして、待ってるわ。」

受話器を置くや否や、私は、わっと、泣き伏した。

私、忘れてた。

こんなに思っていてくれる人がいること。

こんなに愛されてるってこと。

私、幸せなんだ。

彼のことは、もう、考えない。

好きな人を選べばいいのよ。

ああ、なんだか、すごく、すっきりした、いい気分。


いつの間にか、ソファはベッドに変わり、枕も、布団も出てきた。

柔らかな、心地いい音楽が流れ、室内の温度は少し暖かくなっていた。

私は、一切、何も、思い煩うことなく、安らかに、眠りに落ちていった。

それは、深く、穏やかな眠りだった。


どれくらい眠ったのだろう。

爽やかな朝の光に包まれて、私は目覚めた。

そこは、私の部屋だった。

夕べのことは、あれは、夢?

・・・だったのかしら?

夢にしては、はっきりしすぎている。

不思議な感覚に囚われたまま、いつものように、出かける仕度をした。

でも、なんだか、全部、吹っ切れた感じ。

私は、颯爽と、会社へ向かった。


「おい、君、ちょっと、待って。」

振り向くと、彼だった。

「君さ、誤解してない?

昨日のこと。」

「え?」

「彼女と、その、僕は何でもないんだ。」

「・・・・・」

「君に、勘違いされたままじゃ、困るから。」

「・・・・・」

「その、あの、ええと、今日、帰り、時間ある?」

「ええ。」

「じゃあ、さ、続きはその時に・・・」

彼は、にっこり笑って、先に駆けていった。


 <END>


 

パニック障害な私  16





事務の仕事が、なかなか手に付かない。

「しなければ」と、思っただけでも、動悸が打ち始める。

仕事のストレスが、病気の原因の中でも、大きな位置を占めている。

私の脳は、拒絶する。

それを、なんとか、なだめすかして、毎年やってきた。

今年こそは、余裕を持って、決算へと辿り着きたい。

・・・のだが、もう、6月になってしまった。

10月末が、締めなので、もう、8ヶ月分の事務処理をほったらかしにしたままだ。

なんとか、自分自身に、機嫌よく、仕事をしてもらいたい。

とにかく、私は、パソコンを開いてさえいれば、楽しいんだから、電源を切らずに、やってみよう。

そして、音楽、これも欠かせない。

などと、考えてみた末、まず、スカパーのエコミュージックをかける。

そして、パソコンには、書きかけの小説のファイルを開いて置く。

私の脳みそは、かなり、アトランダムにできている。

これは、上手くいくかもしれない。

早速、やってみた。

なるほど、割と、調子いい。

事務仕事ってのは、案外、頭など使わないものだ。

領収証を日付順に並べたり、閉じたり、それを入出金伝票に書き写したり、と、ほとんど手作業をしてることの方が多い。

単純作業中ほど、いろいろ、想像できる時間はない。

執筆中の小説の続きが、浮かんでくれば、パソコンを叩き、浮かばない時は、伝票整理をする。

これは、非常に効率的。

そのうえ、楽しい。

仕事の事ばかり、考えなくてすむ。

やった!

この調子でいけば、事務もはかどるぞ。

久々に、超ご機嫌な私。

はてさて、首尾は如何に・・・








パニック障害な私 15





眠りの質が、変わった。



いままでは、布団に入って、いざ、眠ろうという時、なぜか心に様々なものが去来し、不安感、虚無感、焦燥感、寂寥感に悩まされていた。

それらのものから、わが身を守ろうとするかのように、体は硬く、縮こまるようにして、眠るものだから、体のあちこちが、いつも()っていた。

目覚めもまた、不快感を伴い、なんとも優れない気分を味わわされていたのだ。

夢見も悪い。

大抵、不愉快な夢を見ていた。

辛い、悲しい、怖い・・・そんな夢ばかり見ていると、ぐっすり眠った気がしない。

ずっと、そういう調子だった。



が、最近、それらが、かなり緩和されてきた。

割と、安らかに眠れるようになってきた。

なぜだろう?

と、考えてみた。



ひとつには、友人。

気の置けない友人ができたこと。

彼女には、何でも話せるし、何でも聞いてくれる。

私のすべてを、肯定してくれるのだ。

胸に溜まっていたものを、かなり吐き出せた。

彼女も、また、何でも話してくれるし、何でも聞いてあげられる。

この人の存在は、大きい。

毎日会える距離に住んでいる。

毎日でも、話ができる。

そんな条件にも、救われている。



もうひとつは、音楽。

いつも、枕元で、音楽を掛けて眠るのだが、最近、新しいCDを買った。

喜多郎の '99 年発売のベストコレクションである。

これは、すごくよかった。

聴いていると、体が(ほぐ)れていく。

柔らかくなっていく。

気持ち良く、眠れる。

いままで、いろんな音楽を聴きながら、眠っていたが、これほど、リラックスさせてくれるものは、初めてだ。

寝覚めの気分も、よくなった。

すごく穏やかな気分で、目覚めることができる。



眠る、ということは、私にとって、とても、重要なことだ。

いわゆる、ある種の睡眠障害とも言える状態に、長い間、苦しめられていたのだが、これで、なんとか、快方に向かう兆しが見えてきた。



まったく、人間の脳とは、いかにデリケートなものであろうか。

いくら、薬を飲んでみても、ダメだったものが、思わぬことで、氷解していく。



同じようなお悩みをお持ちの方、一度試してみる価値は、ありそうですよ。





パニック障害な私 14





じわり、じわりと、気温は、上がりつつある。

自律神経を患うものは、気温の変化が、これまた、辛い。

体温調節が、うまくいかないのだ。

寒いなら、ずっと、寒い。

暑いなら、暑い、と、はっきりしてくれるなら、よいのだが、こう、日々、寒暖の差があると、ちと、厳しいものがある。

寒いと思い、ぬくぬくと、布団をかけて、寝ているうちに、体温は、上昇する。

暑くなってくる。

・・・のだが、脳みそは、鈍っている。

暑いと気付かぬまま、体温は、上ったまま、目が覚めてみると、体中、汗まみれになっている。

布団を蹴る、という、ごく当たり前の反応さえできない。

特に、暑さには、弱い。

もともと、暑いのが、苦手だったものが、より一層、不得手になってしまった。

仕方なく、エアコンのお世話になり、私の代わりに、温度調節をしてもらう他ない。

それもまた、効きすぎても、いけない。

冷えすぎは、誰しも、気を付けていると、思うが、普通以上に、気を使う。

真夏であれば、28℃に、設定し、何とか、汗を、かかなくてすむ温度を保っていればよいのだが、今の時期は、そうもいかない。

なにせ、刻々と、気温は、変化し続け、朝、寒いと思っていると、あっという間に、真夏並みにまで、上昇している。

体の反応は、当然、追いつかず、昼頃になると、「うぁ~、しんどい~」と、唸りつつ、

布団に横たわって、時を待つしかないのである。

そして、これまた、夕食も作れず、日が落ちてから、よろよろと、起き上がり、食料調達に出かける有様となるのだ。








股関節脱臼だった私





生まれた時、股関節を、脱臼していたらしい。

これは、比較的、よくある事らしい。

今は、乳児検診などで、割と早期に発見され、

すぐに、治療を受けることができるが、私が生まれた頃は、そんなものはなかった。

保育園に通い始めて、保母さんに指摘されるまで、発見されなかった。

母は、慌てて、大学病院に、連れて行った。

すると、医者の言う事にゃ、

「このくらいの事は、よくある事です。

 別に、治療する必要は、ありません。」

・・・とな。

「よくある事」と「治療の必要なし」とは、如何なる因果関係が、あろうか?

可笑しいじゃないの。

え、みんな、脱臼したまま我慢してんだからあんたも、それくらいの事で、大騒ぎしなさんなってこと?

ったく、いい加減な医者ほど、たちの悪いものはない。

大学病院でっせ!

ダ・イ・ガ・ク・ビョ・ウ・イ・ン!!



そして、そのまま、私は成長していった。

今、思い出してみれば、可笑しかったのだ。

走るのが、遅い。

遅いったって、並の遅さじゃない。

人の倍くらいかかる。

鉄棒、逆上がり、できない。

ブランコ、立ち乗り、できない。

ジャングルジム、登り棒、できない。

長時間歩くと、ひどく疲れる。

これらのことは、すべて、股関節の脱臼が、原因である。

と、今なら、断言できる。



20歳の頃、たまたま、整体治療を受けた。

その時、言われた。

「両足、揃えてみて、10cmくらい、長さ             

 が、違いますね。

 このままじゃ、出産するのは、無理です。

 股関節が、完全に、外れてますから、はめときましょう。」

20年経って、

やっと、私は、人並みの体になった。

この整体の先生に、出会わなかったら、私は、普通分娩もできない、なんて、知りもせず、結婚していたかもしれない。



それにしても、ここまでの20年間、

すっごく、損した、と思う。

体にこんな不具合があるなどと、思ってもいないから、

人と比べては、落ち込み、

人に笑われては、また、落ち込み、

人に蔑まれては、またまた、落ち込み、

とにかく、どこまでも、果てしなく、落ち込んでいったのである。

底なしだ。

かくて、私は、大きな、コンプレックスの塊のような代物に、ならざるを得なかったのである。

子供心に、これは、相当、キツイ。

いつも、重~い漬物石でも、背負って生きているようなものだった。



医者との出会いは、ある意味、縁であろう。

そういう医者に出会う、また、そういう対応しかしてもらえない、運命であった、と思うしかない。

たぶん、私と同じような経験をお持ちの方も、同年代の中には、多々、いらっしゃると、思われる。

私と、同じような気持ちを、抱いておられるかもしれない。

事ほど左様に、納得のいく治療が受けられるということは、如何に、幸運なことか。

昨今の、医療訴訟の記事など見ても、嘆かわしく感じる、今日この頃である。

 


パニック障害な私 13







書けるときに、

できるだけ、書いとこう。

また、いつ、

書けなくなるやもしれぬ。

あまりにも、

現実に追われると、

こんなものは、書けない。

今が、割と、平穏であり、

療養と称して、

自由にさせてもらっている、

故に、書けている。

と、言うか、

自由にさせて置くしかないのが、

今の状態と言えよう。

とにかく、無理は、いけない。

一時間動いたなら、休憩すべし。

と、医者には、言われているが、

ついつい、やりすぎる。

庭の生垣を、剪定する。

やり始めると、面白くなってくる。

ここまで、いや、もう少し・・・

かくして、限界を超え、

バクバク音を、聞きながら、

2~3時間、横たわる羽目になる。

そうなると、もう、あまり、

動けなくなってしまう。

大概、朝は、調子がいいので、

ご機嫌よろしく、今日こそは、

美味しい夕食を作るぞ、とか。

あ、あっちの花を、

こっちに植え替えよう、とか。

ここら辺、散らかってるから、

ちょっと、片付けましょか、とか。

いい天気だー、一気に、

洗濯物を洗っちゃおう、とか。

やたらと、意気込みは立派だが、

気分のままに、

何やかやと、やってしまうと、

午後からは、重病人の様相を呈して、

横たわったまま、夕方を迎える。

かくして、夕食など、作れるはずもなく、

ひどい時は、買い物さえ行けず、

家族に頼んで、お惣菜やお弁当など、

買って来てもらう不甲斐なさ・・・

どんよりと、自己嫌悪をまとい、

夫にも、悪いなあ、と、思いつつ、

病気なんだもん、仕方ないんだもん、

などと、開き直ったり、忙しい胸の内。

まあ、長い人生、

こんな時期があっても、

いいんじゃなかろか、と、

自己弁護しつつ、日々、過ごすのである。






パニック障害な私 12



 

病名を、告げられてから、

いったい、どのくらい、

暗闇の中にいたのだろうか。

何ヶ月か、一年くらい?

いや、もっと、長かったかもしれない。



昼も夜も、一室に(こも)り、

カーテンを引き、できる限り、

光を避け、音を遠ざけていた。

極力、家族の顔も、話し声も、

近づけないよう、

布団の中に、頭まで、潜り込んで、

さながら、冬眠中の熊のごとく、

寝ては、覚め、

覚めれば、薬を飲み、また、眠る。

眠っている時だけが、

病気から、諸々の悩みから、

家族の思惑、家庭内の諸事・・・

私に(まと)わりつく、ありとあらゆるものから、

解放されるのだった。



覚めている時も、

安穏とは、していられない。

一日に、2~3回は、

必ずといっていい程、私を襲ってくる、

パニック発作と、戦わねばならない。

一回戦、ほぼ、2時間、症状は、続く。

疲れ果て、薬が、効き、

やっと、眠りに落ちる。



これでは、当然のことながら、

生きているのが、やっとと言う状態である。

食欲はなく、何をする気力もない。

いつまた、発作が起きるかと思うと、

入浴すらできない。



薬の量も、半端ではない。



抗うつ剤(パキシル)    4錠

安定剤 (デパス)     2錠

 〃  (ワイパックス)  3錠

入眠剤           1錠

睡眠剤           1錠



ざっと、これくらいの量を、飲んでいた。

他にも、いろいろ、試しに飲んだ薬など、

数え上げれば、きりがない。

最近の薬は、あまり激しい副作用は、ない。

とは言え、これだけ飲んでいれば、

普通の状態でいられるほうが、おかしい。

トイレに立てば、立ったで、

なにやら、平衡感覚が変・・・

よろよろ、ふらつき、あちこちに、

体をぶつけながら、ようやく、辿り着く。

起きている時も、やたらに眠い。

思考能力が低下している。

頭に、もやが、かかっている。

味覚障害らしき傾向も現れる。

辛い、酸っぱい、苦い、の味覚に、

とんでもなく、刺激を受ける。

頭にまで、響く。

量的にも、一度に、少量ずつしか、入らない。

それなのに、体重は増えていく。

身動きするのも、厄介なほど、

見た目にも、太っていった。

152cm 、67kg

最早、痩せることすら、考えられず、

陸に上ったアザラシ同様、

ただひたすら、横になっているより他、

どうしようもなくなっていた。





パニック障害な私 11





やはり、私は、

病んでいるらしい。

被害妄想的な、思考回路は、

なかなか、切り替えることができない。



誰も、私を、傷つけるつもりなど、

ない筈なのに、

ちょっとした、言葉の言い回しに、

自分勝手に、傷ついている。



なんとか盛り上げてきた、

テンションを、またしても、

一気に、落っことしてしまう。



一度、落ちると、

また、元の位置まで、這い上がるのは、

並大抵の事ではない。



小刻みに、上下運動を、繰り返しながら、

少しでも、上向くようにと、

意識して、日々、過ごす。



少々、苦しくても、散歩に出かけたり、

近所の人と、話したり、

新しく、花を買い、咲かせてみたり、

できる努力は、一通り、やってみる。



なんとか、それなりに、

落着きを、取り戻し、ふと油断した隙に、

思わぬ方角から、ガツンと一発、

責め句でも、ぶつけられようものなら、

真っ逆さまに、穴底へと、叩きつけられ、

当分、その暗闇の中で、

膝を抱えて、暮らすはめになるのだ。





 | ホーム | 

FC2Ad

プロフィール

昌子

Author:昌子
パニック障害と不安障害になって、
10年が過ぎました。
大量の薬、副作用、家庭環境、
精神的虐待、自虐的心理状態・・・
などと闘ってきました。


相互リンク
 ↓
TSUKIKO
メンタルヘルス
コミュニティ

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

未分類 (4)
パニック障害な私 (426)
小説 (11)
詩 (7)
人恋ふる歌 (0)
ブログ (12)
お知らせ (1)
音楽 (15)
ブログネタ (13)
ピグ (11)
メンヘラーのための超かんたんレシピ (7)
猫を飼う (13)

フリーエリア

フリーエリア

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。