夢の欠片ーパニック障害な私ー

パニック障害と不安障害を抱え、 なんとか生きている私の日常。

2017-08

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続・罪 (1)

 

 

屋上の手摺から、身を乗り出して、私は、一部始終を見ていた。

彼女の周りを、医師や看護士、様々な医療器具が取り囲み、心音を聴いたり、脈を取ったり、怪我の状態を調べたり、心臓マッサージをやったりしていた。

が、ついに、医師は、瞳孔を照らし、そして、腕時計を見た。

皆が皆、一斉に彼女に向かって、手を合わせ、

それから、おもむろに、ストレッチャー以外の物は、すべて片付けられていった。

もう笑わなくなった彼女の体は、それに、乗せられ、私の視界から消えた。

それでも、まだ私は下を見続けていた。

生々しく放置された彼女の血液が、そこら中に飛び散った様を凝視していた。

思考は、完全に停止し、体は硬直していた。

どのぐらい、そうしていたのだろうか。

私を呼ぶ声に気付いて、やっと、私はこの縛から解き放たれた。

途端に、すべての力を、一瞬にして奪われ、その場に、崩れてしまった。

床に転がった2本のペットボトルが、陽に照らされ、眩しい光を放っている。

 

ベッドに横たわったまま、時間だけは過ぎていく。

この部屋の中は、何の変化もないのにね。

窓の外を、日が昇ったり、沈んだりして、それで、一日経ったって、判る。

 

いつも、夜中に目が覚めて、それから、朝まで、眠れない。

誘眠剤とか、睡眠剤とか、飲んでみても、あまり変わりはない。

することがないので、ノートに、とりとめもなく何かしら、書いてみる。

それは、字だったり、絵だったり、記号だったり、ただの三角だったり・・・

本当に、なんの意味もない。

 

 

ある夜、いつもの時間に目が覚めた。

しばらく、ぼーっとしていたら、何か白い物が浮かんでいるのが見えた。

よくよく、目を凝らしてみると、それは、人の形をしていた。

ひぇ~、まさか****?

慌てて、布団を被った。

そんな、まさかね。

私、霊感なんてないし・・・

****なんか、見るわけないわ。

恐る恐る、顔を出してみると、まだ、それは、そこに居た。

こ、怖い~。

は、早く消えて~。

「怖がらないでよ、私なんだから。」

私?・・・私って、誰?

「私よ、よく見てよ。」

よく見ろったって、いやよ。

怖いんだもん。

「怖くなんかないでしょ。

生きてる時は、いつもいっしょにいたじゃないの。」

えーっ!

やっぱり、****じゃないのー。

「私、レモンティー、飲みそこなったのが、心残りなの。

飲んでから、死ねばよかったわ。」

あ、なんだ、彼女じゃない。

「そうよ。

だから、怖くないでしょ。」

そんなこと言ったって、やっぱり、怖いわよ。

「私、死んでから、ずっと、この辺りをうろうろしてるの。

迷っちゃったみたい。」

えー、そんなこと言われたって、何にもしてあげられないし・・・

「あなた、さ、どうせ夜眠れないんでしょ?

朝まで、ここに居させてくれない?」

そんなぁ、****と朝までいっしょなんて、あんまり気持ちいいもんじゃないわよ。

なんだか、気分が悪くなってきちゃった。

私は、****のほうを見ないように、急いで安定剤を飲んだ。

そして、布団を頭まで引っかぶり、

「どうか、眠れますように・・・」

と、ひたすら祈った。

 

やっと、うとうとし始めたのは、もう明け方だった。

そのまま、お昼前まで、眠っていた。

う~~~~~

なんだか、気分悪~い。

夜中のあれは、いったい何だったのだろう。

ほんとに、彼女だったのかな?

夢だったのかもしれない。

やだなぁ、誰か、お見舞いに来てくれないかしら?

入院してから、お兄ちゃんが、時々来てくれるだけだ。

夫は、来ない。

来てくれなくてもいいけど・・・

いえ、来ないほうがいい。

来てなんか欲しくもない。

 

「ねえ、今日、外科で、一人亡くなったみたいよ。」

よしてよ!

こんな真夜中の病院で、そんな話、怪談より怖いじゃない。

「その人は、どこへ行くのかしら?

どこか、行く所があるのかしら?」

知らないわよ、そんな事。

「私は、どうすればいいのかしら?

このまま、ずっと、ここに居るのかしら?」

・・・・・

「ねぇ、あなた、いっしょに来てくれない?」

な、なんですって!?

私は、いつも通り、布団の中に潜り込んでいた。

よして、よしてよ、そんな話、聞きたくない。

私は、両手で耳を覆った。

早く、どっか行っちゃってよ。

なにも、私のとこなんかに、居なくても・・・

 

 <つづく>

 

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続・罪 (2)

 

「もしもし、あ、お兄ちゃん、私。」

「ああ、どうしてる?

ごめんよ、このところ、忙しくしてて・・・」

「そう、忙しいの?」

「来月には、行けると思うから・・・

すまんな、寂しくさせて。

何か要る物あったら、持ってくよ。」

「ううん、別にいい。」

電話を切ってから、しばらく、談話室に座っていた。

義姉さんの顔が、思い出される。

いつも、私を見る目が、どう好意的に解釈しても、「邪魔者」と、言ってるようにしか見えない。

義姉さんの手前、あんまり足繁く、ここに来られないんだって事も、おおよそ見当が付く。

お母さん・・・

お母さんが生きてれば・・・

もう、ちょっと、あれよね。

二人とも、なんで、あんなに早く逝っちゃったのよ。

 

「ねえ、ねえ、ってば。

ちょっとは、私、見てよ。」

いやよ、いやあ。

****なんて、見たくない。

「ひどいわね。

どんな姿になっても、私は私じゃない。」

違う、違う、あなたじゃない。

「入れ物が、壊れちゃっただけで、中身はおんなじじゃない。」

・・・・・

「私、すごく、寂しいの。

私が死んだって、誰も悲しんでなんかくれないし、死んでくれてよかったって、思ってる人もいるのよ。」

・・・・・

「私だって、何も好き好んで、あんな人生、選んだ訳じゃないのに・・・」

・・・・・

「ねえ、あなたなら、解ってくれるでしょ。

ねえ、ねえ、ったら。」

可哀想だとは思うけど・・・

「だから、ここに居させて、お願い。」

・・・・・

 

 

「やあ、元気してたか?

あ、いや、病人に言う言葉じゃなかったな。

どうだい、少しはよくなってるかい?」

「よくわかんない。

よかったり、悪かったり・・・

でも、発作の回数は減ったみたい。」

「じゃあ、よくなってるんじゃないか。

主治医の先生も、このまま、よくなっていくようなら、退院もそう遠くないって、仰ってたよ。」

「退院?

退院するって、私、どこに帰ればいいの?」

「そりゃあ、うちへ来りゃいいだろ。

なんなら、一部屋、建て増ししてやろうか?」

「いいわよ、そんな、お義姉さんに悪いじゃない。」

「何も遠慮なんかしなくたって、あそこはお前のうちじゃないか。

第一、もう奴の所になんか、帰れやしないし、

俺も、お前をあんな奴んとこへ、二度と行かせたくないし・・・」

「お兄ちゃん・・・」

「心配するなよ。

お前は、幸い子供もまだだし、これから、いくらだって、やりなおせるんだから。

あ、そうそう、お前の好きなチーズケーキ、買って来たから、いっしょに食べよう。」

「あら、嬉しい。

何か、飲み物買ってくるわ。」

自販機の前まで来て、ふと、彼女の事を思い出した。

硬貨を入れて、ボタンを押そうとした時、私の指が触れるより先に、レモンティーの文字が赤く点灯した。

え?

ガタン・・・と、ペットボトルが取り出し口に落ちて来た。

やだ・・・

もう一度、硬貨を入れてみた。

今度は、なんともない。

なんだ、気のせいね。

そうよ、そうに違いない。

 

 

「なによ!

知らん顔しちゃって・・・

わかってるくせに・・・」

あー、やっぱり、気のせいなんかじゃなかったんだわ。

「あなた、この先どうするつもりなの?

なにか仕事とか、宛はあるの?」

・・・・・

「実家に帰っても、居ずらそうね。」

・・・・・

「ただ生きてたってしょうがないんじゃない。

今のあなたと、今の私と、どこに違いがあるって言うの?」

・・・・・

「いっそ、私の所へ来たほうが楽なんじゃないかしら。

ね、そう思わない?」

・・・・・

 

「お前、俺のせいだって言うんじゃないだろうな。

なんとか言えよ。

なんだよ、その目は・・・

いつだって、被害者面しやがって、まるで、俺が悪者みたいじゃないか。

俺の気に入るようにしないお前が悪いんだぜ。

苛められたみたいにいうなよな。」

最後に私を殴った時、夫はそう言った。

じゃあ、どうすればよかったって言うのよ。

私、できるだけの努力はしたわ。

もう、疲れ果てて、何にもできなくなるくらいに、ね。

ここに運ばれてきた時、ほっとしたわ。

これで、もう、ひどい目に合わされずにすむって・・・

私は、あちこち、怪我してたし、精神的にも限界だった。

カルテには、なにやかや、いっぱい書き込まれていった。

外科で、怪我の治療をして、内科でも、いろいろ調べられた。

結果、精神科へ移された。

カウンセリングを受けて、抗鬱剤とか、安定剤とか、飲んで、なんとか、平常心を取り戻しつつあるってとこかしら。

こんな状態で、退院したって、どうしたらいいか、わからない。

働くなんて、当分無理だし、だって、人と会うのだって、嫌なんだもの。

 

 <つづく>

 

続・罪 (3)

 

「逝きましょう、さあ、逝きましょうよ。」

彼女は、毎夜、私の耳元で囁く。

「いっしょに、逝きましょう。」

やめて、聞きたくないのよ。

耳を塞いだって、その声は、防げやしない。

私の頭の中に、直接響いて来る。

「やめて、やめて・・・」

その時、目の前にナースコールが見えた。

それをつかむやいなや、力一杯、押した。

早く答えて!

私は、汗まみれになって、祈った。

「どうしました?」

「早く、来て!」

その瞬間、彼女は消えた。

 

前より少し強い安定剤が、処方された。

睡眠剤も変わった。

多少眠れるようになった。

とにかく、あの時間帯に目を覚まさないように、計算して、薬を飲むようにした。

おかげで、ここ一週間は、彼女に会っていない。

これで、ようやく、気が楽になった。

 

 

「ご主人が、会いたいと、言っておられますが、どうです?

お会いになりますか?」

主治医は、いきなり、そんな事を訊いた。

・・・・・

「すぐに、という訳ではありませんから、一度、考えておいてください。」

「はあ・・・」

会いたくない、と思う。

会うのが怖い。

顔を見たら、具合が悪くなるかもしれない。

いや、きっと発作を起こすに決まってる。

・・・ような気がする。

どうだろう?

よく、わからない・・・

彼は、今、どうしてるんだろう。

一人じゃ、なんにもできないのに、ご飯とか、洗濯とか、お義母さんに来てもらってるのかもしれない。

人の気持ちって、不思議だ。

こうして、離れてみると、そんなに、ひどい人とも思えない。

渦中にいる時は、あんなに、憎み、忌み、嫌い、恨み、いっそ、さっぱりといなくなってくれたらいいのに、と、四六時中、思っていた。

寝てるところを、眺めながら、今なら殺せるかも・・・

この人を、刺して、私も・・・って、

何度、そう思ったかしれやしない。

でも、できなかった。

ほんとは、いい人なんだって・・・

優しいひとだって、思いたかった。

心のどこかで、信じていたかった。

彼本来の姿に、いつか戻ってくれるに違いない。

もしも、そんな日が、いつか、来たら・・・

そうなったら、私たち、毎日幸せに、笑って暮していける。

って、夢でしかないかもしれないのに、1%でも、信じていられるなら、信じていられるだけ、信じていたかった。

 

ある日、主治医と夫と3人で、会った。

夫の顔を見るのが、怖い。

私は、ずっと俯いていた。

「ご主人は、ずっと、カウンセリングを受けに、いらしています。」

え、そうなの?

「俺が・・・

間違ってたのかもしれない。」

夫は、ぽつりと言った。

「・・・・・」

その言葉を、どう受け止めたらいいのか。

私は、何も言えなかった。

言葉が出てこなかった。

俯いたままだった。

夫もそれきり黙ったままだった。

 

「なんだって!

あいつに会ったのか?

なんで、また・・・」

「だって・・・

先生が、向こうが会いたいって、言ってるって、だから、一度、会ってみたらって・・・」

「お前、もう会うなよ。

誰のせいで、こんな事になったと思ってんだ。まったく、厚かましいやつだな。」

「・・・・・」

「ほら、お守り買って来てやったぞ。

早く、良くなるようにな。

氏神様の病気平癒のお守りだよ。」

「ん、ありがと・・・」

「さあ、これを、首に掛けとくんだ。

これで、もう大丈夫。

すぐに、良くなるからな。」

「・・・お兄ちゃん。」

「おい、泣くなよ、お前・・・」

 

そうね、元気にならなきゃ。

退院して、お兄ちゃんとこに、置いてもらおう。

そして、何か、私にでもできる仕事があったら、働いて、お金が、貯まったら、アパートでも探して・・・

私は、少し、勇気が出てきた。

談話室でコーヒーを飲みながら、窓の外を眺めていた。

もう、すっかり秋ね。

空には、いわし雲が、きれいに並んでいる。

談話室には、私の他には誰もいない。

私は、久々にゆったりとした気分になれて、ほっとしていた。

・・・のも、束の間。

いきなり、ドアが開いて、誰か入って来た。

あっ!

何?・・・あなた・・・なんで?

夫が、つかつかと、私の前までやって来た。

「おい、お前、このまま別れようって言うんじゃないだろうな。

お袋に、さんざん煩く言われて、カウンセリングとかに通ってるけど、もう、うんざりなんだよ。」

・・・・・

だ、だから何だって言うの・・・

私は、反射的に夫から顔を背けた。

「いつまでも、こんなとこで、病人面しやがって、さっさと帰って来いよ。

お前がいなきゃ、困るんだから。」

・・・・・

やめて、いや、聞きたくない・・・

・・・・・

「聞いてんのか?

おい、解ってんだろうな。

早いとこ、退院しろって言ってんだよ。」

夫は、今にも、つかみかかりそうな勢いでまくし立てる。

・・・やめて・・・

動悸が打つ。

全身から汗が噴出す。

震えがきた。

吐き気がする。

息ができない。

ああ、苦しい。

誰か、助けて・・・

私は床に蹲って、がたがた震えていた。

持っていたコーヒーの缶が転がり、床に茶色の液体が広がっていく。

「何してるんですか!」

ああ・・・看護士さんの声・・・

「勝手に入っては困ります。

さあ、出て、早く、出て行ってください。」

「なんだい、俺はあいつの夫だ。

何しようと、勝手だろ。」

「なんですって。

あの方は、ここの患者さんですよ。

あなたの奥さんだからって、手荒な真似をされちゃ困ります。」

そうこうするうち、何人か、看護士さんが入って来た。

「どうしました?」

「あっ、大変だ。」

「私、先生を呼んでくるわ。」

ああ、助かった・・・

私は、力無く、床に倒れ込んだ。

 

 <つづく>

 

続・罪 (4)

 

「無事だったのか!?」

「あ、お兄ちゃん」

「ああ、よかった。」

「こんな遅くにどうして・・・」

「先生が、知らせてくださったんだ。

それで、すぐに飛んで来たんだ。

ここまで来るのに、こんなに時間がかかると思ったのは、初めてだよ。

よかった、ほんとによかった・・・

お前が、なんともなくて・・・」

「お兄ちゃん・・・ありがとう。

私・・・怖かった・・・」

「あの野郎、何考えてやがんだ。

まったく、自分のやってる事、全然わかってないんだな。

あいつこそ、入院すりゃいいんだ。

頭、おかしいんじゃないか。」

「・・・お兄ちゃん・・・

いっつも、心配かけて、ごめんね。」

「何言ってんだ。

お前の事、心配すんの、当たり前だろ。

ちゃんと、面倒見てやらなきゃ、父さんと母さんに、叱られちゃうからな。」

「・・・そう・・・ね。

お父さんもお母さんも、私の事、心配してくれてるよね。」

「何、決まり切った事、言ってんだよ。

すぐにでも、連れて帰りたいところだが、仕方ない、とにかく今夜はここに居てやるから、ゆっくり休めよ。」

「居てくれるの。」

「ああ、だから安心して寝ろ。」

 

翌日は、入浴日だった。

お守りを引出に仕舞って、浴室に入った。

週に二回の入浴は、気持ちがいい。

髪も洗ったので、ちょっと疲れた。

薬を飲んで、いつもより早めに、眠ってしまった。

もう朝?

ああ、まだ3時だわ。

私はトイレに立った。

薄暗い廊下は、ちょっと不気味だ。

用を足して、トイレのドアを開けると、

「やっと、会えたわ。」

あ・・・・・

「ずっと、待ってたのよ。

あのお守りを外すのを・・・」

私は、不意打ちを食らって、立ちすくんだ。

彼女と向かい合ったまま、動けない。

「ひどいじゃない。

私を一人ぼっちにして・・・」

否応なしに、その顔を、見せ付けられる。

「お願いだから、いっしょに来て。

さあ、こっちへ・・・」

彼女は、階段のほうへ行こうとしている。

「さあ、早く。」

私の体は、何かとてつもなく強い力で、引っ張られていく。

いや、行きたくない。

「行くのよ、私と。

すぐに楽になれるわ。」

行かない、行きたくない。

「さあ、こっちよ。」

私は、全身の力を振り絞って、踏みとどまろうと踏ん張っていた。

「なによ!

生きてても、なんの役にも立たないくせに、なんの為に生きようって言うのよ。」

訳の解らない怒りが、込み上げて来る。

なんの権利があって、そんな事言うの。

私は、私のものじゃない。

「そうよ!

私は、この命を生かす為に生きるわ。

あなたなんかの言うなりにはならない!」

「なんですって?!

そんな風になって、それでも、生きてるって言えるの?

あなた、一人じゃ、なんにもできないくせに。」

「関係ないわ!

今の私が、どうであれ、私は私よ。

両親が、産んでくれた大切な命よ。

私は、この命を護る務めがあるの。

あんたなんかの指図は、受けない。

さっさと、消えてちょうだい。」

彼女は、一瞬、周りの空気を、凍らせてしまうんじゃないかと思うほど、冷たい、哀しい、表情を見せた。

その顔を、私は、キッと見据えた。

精一杯の力で、彼女の念と、戦っていた。

長い時間・・・

永遠とも思える時間・・・

つ・・・と、緊張が途絶えた。

あの時と同じ笑みを浮かべた彼女は、次の瞬間、掻き消すように、消えてしまった。

 

「もしもし、あ、お兄ちゃん?

ちょっと、お願いがあるの。」

「ああ、なんだい、珍しいな。

お前が、お願いだなんて・・・」

「ええ、悪いけど、市役所に行って、離婚届の用紙、貰って来てくれない?」

「お前・・・そうか・・・

ようし、明日、朝一で行って、その足で、持ってってやるよ!」

「お兄ちゃんったら・・・」

 

私は、自販機で、レモンティーを2本買った。

談話室のいつもの席に、一本置いて、もう一本をゆっくりと、飲み干した。

 

 <END>

 

 

池の辺にて (1)



公園の池の辺に腰を降ろして、

私はいつも空想を巡らせていた。

何時間でも、じっとしていられた。

心だけは、縦横無尽に飛び回り、

窮屈なこの体へ戻って来るのを嫌がった。

日々移ろいゆく季節の彩りを眺めてさえも、一日なんて、あっという間に過ぎる。

鳩の仕草を観察していても、

風船の行方を追いかけても、

子供達の遊ぶ様子を眺めていても、

日が暮れるまで、

私はいつもそこに居た。


ある日、私の前に一人の男の子がやってきた。そう年は違わないみたいだ。

「何をしてるの?」

「眺めてるの。」

「なにを?」

「何って、何でも・・・」

「何でも?」

「そう、眺めるものは、たくさんあるわ。」

「たとえば?」

「ほら、あの犬、散歩してる。

大きな犬ね。

連れて歩いてる子供のほうが小さいわ。」

「それで?」

「さっきから、犬が言うこと聞いてくれなくて、半分泣きべそ・・・うふふ。」

「ほんとだね。」

彼は、私の隣に腰を降ろした。

「もう少ししたら、あの子のお兄ちゃんが、戻ってきてくれるのよ。」

「どうしてわかるの?」

「さっき、いっしょにここへ来て、お兄ちゃんは、仲間達と、サッカーやってるの。

だから、もうすぐ、日が暮れるから、弟のところに戻ってくるの。」

「ふーん。」

彼は、あまり興味なさそうに聞いていた。

「あなたは、なぜここに居るの?」

「僕は・・・なんでだろうなぁ。

なんだか、家に居たくなくて・・・

なんとなく、ぶらぶらしてた。」

「そう、家って窮屈だもの。

あんな所にじっとしてなんかいられやしないわ。」

「ああ、そうだね。

まったくだ。

家って、窮屈なんだ。」

「でしょ、だから、私はいつもここに居るの。」


彼は、次の日も来た。

「ねえ、ずっとここに居て、退屈じゃない?」

「退屈?

退屈って、どんなこと。」

「え?・・・

そりゃ、退屈っていうのは・・・」

「あ、見て見て。

水鳥が、舞い降りてきたわ。

あれって、なんていう鳥かしら?」

「さあ、僕、あんまり知らないから・・・」

「ふふふ・・・

すごく楽しそう。

ね、水浴びしてるのかな?」

「さあ、そうかも・・・」

「あっ、また来た。

1,2,3・・・6羽ね。」

「君、高校生?」

「え?・・・うん、そう。」

「学校、どこ?」

「いいじゃない、どこだって。」

「ああ、そうだね。

じゃあさ、大学とか行くの?」

「大学?・・・そうね。

大学って、行ってみたいわ。」

「そう、志望校は?」

「ああ、そんなのは、ないの。」

「ない?・・・ったって・・・」

「んー、ねえ、大学って、なんかいいわ。

なんか、かっこいいわ、大学生って、」

「かっこいい?」

「そうよ、大学行って、一人暮らしして、

アルバイトして、楽しそう・・・」

「ああ・・・そう・・・ね。

そうだといいね。」

「あなたは、どこか受けるの?」

「ん、いちおう、ね。

T大を・・・」

「ええっ!

それって、すごいことじゃない。」

「すごい?」

「そうよ。

私なんか、そんなとこ受ける友達一人もいないわ。

クラスの中には、いるみたいだけど。

すごいわ、優秀なのね。」

「僕は・・・僕、ほんとは・・・

T大なんか、行きたくないんだ。」

「え、なんで?

入れるんでしょ?」

「今のところ、担任はそう言ってるよ。

でも、僕は、ほんとは、美大に行きたいんだ。」

「美大ですって!

美大って、最高に素敵じゃない。」

「そうかな?」

「そうよ。

ああ・・・び・だ・い・・・

なんて素敵な響・・・」

「でも、両親に反対されてる。」

「あら、どうして?」

「美大なんか出て、どうするんだ?

・・・って・・・」

「どうするって?

あなた、絵を描くの?

それとも、彫刻? イラスト? 版画?」

「油絵だよ。」

「まあぁ、ほんとに素敵。

ねえ、あなたの絵、見せて欲しいわ。」

「そりゃあ、いいけど・・・」

「美大を出て、画家になるんでしょ?

すごく、素敵な事じゃない。

そしたら、こんなきれいな空とか、

木とか、花とか、人とか、

なんでも、好きなものを描けるんだわ。」

「ああ、そうだね。」

「あ、ねえ、いつか・・・

いつでもいいの。

私の絵、描いてくれない?

私、自分の肖像画って、

一枚も持ってないの。」

「あんまり持ってる人はいないと思うけど、

いいよ、君を描いてあげるよ。

いつか、きっと・・・」

「そう、ほんとに?

いつでもいいの。

ずーっと先でもいいのよ。

あー、楽しみだわ。」


 <つづく>



 

 

 

 

 

 

 

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プロフィール

昌子

Author:昌子
パニック障害と不安障害になって、
10年が過ぎました。
大量の薬、副作用、家庭環境、
精神的虐待、自虐的心理状態・・・
などと闘ってきました。


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